甲状腺機能障害

甲状腺機能亢進症

甲状腺ホルモンが異常に多く分泌される病態を甲状腺機能亢進症といいます。この病態のほとんどは、バセドウ病(グレーブス病)という病気が原因です。バセドウ病は、甲状腺を刺激してホルモンを分泌させるホルモン(脳の一部である下垂体から分泌されるホルモン:TSH)の受容体の抗体が体内に産生されて発症しますが、その原因はまだよくわかっていません。
バセドウ病は、若い女性に多い病気です。また、家族内で発症することも多い病気です。

甲状腺機能亢進症の症状

胸がどきどきする、汗をよくかく、体重が減る、いらいらする、眠れないなどですが、男性の場合には、手足に力が入らないこともあります。また、高齢者では、息切れ、脈が乱れる、寝ると息が苦しいなどの症状がでることもあります。身体の変化としては、甲状腺が大きくなることによる首の甲状軟骨(のどぼとけ)の下の腫れ、目が大きくなる(飛び出る)、まぶたの腫れ、足の腫れなどがあります。

甲状腺機能亢進症の診断

診断は血液検査でほぼ可能です。甲状腺ホルモンである遊離型T3、T4の上昇とTSHの低下、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体抗体(TRAb)が陽性であれば確からしいバセドウ病と診断できます。当院では、院内で遊離型T3、T4とTSHの測定が即日に可能です。
TRAbは外部の検査機関での測定となりますが、通常3~4日で結果がわかります。また甲状腺エコーにて、甲状腺全体の腫大や血流の亢進があれば診断の助けとなります。

甲状腺機能亢進症の治療

多くの場合、最初は内服薬の服用となります。内服薬にはメルカゾールRとチウラジールRがありますが、両者とも一長一短があります。もっとも多い副作用は、皮膚のかゆみですが、かゆみ止めの薬でほとんど治ります。しかし、白血球の一種である、顆粒球が減少することがあり、その場合には高熱が出るため、内服を中止しなければなりません。
その場合には、ヨウ素の多量内服や、他の治療法の選択が必要となります。また、内服薬の治療が長期に必要な場合や、再燃を繰り返す場合にも他の治療法の適応となります。他の治療法には、放射性ヨード剤の内服や手術があります。当院では、どちらもできませんので、治療可能な病院へご紹介させていただきます。

追記

甲状腺ホルモンが血中に多く存在しても、甲状腺がホルモンを過剰に産生していない場合があります。その病態を甲状腺中毒症と呼びます。例えば、慢性甲状腺炎(橋本病)や亜急性甲状腺炎の場合には、甲状腺の組織が破壊され、ホルモンが一過性に血中に放出される場合があります。また、甲状腺ホルモンが含まれるやせ薬を服用したり、間違って甲状腺の組織が混入したハンバーグを摂取した場合にも血中のホルモンが増え、バセドウ病と同じような症状を起こすことがあります。

甲状腺機能低下症

慢性甲状腺炎(橋本病)…甲状腺機能低下症の中で最も頻度が高い

甲状腺が抗甲状腺抗体により攻撃され、慢性に炎症を起こす病気です。1912年に日本人の橋本策(はかる)先生が世界で始めて発表したため、その名前がついています。抗体とは、普通は身体に異物が入った場合、主にリンパ球で産生され、異物を消滅させる役割を果たしています。しかし、この病気の場合は、甲状腺に存在するサイログロブリンというホルモンの原料となる物質や、甲状腺酸化酵素(甲状腺ペルオキシダーゼ:TPO)というヨードを酸化して甲状腺ホルモン産生に必要な物質に対する抗体が産生され、甲状腺を攻撃します。どうして抗体が産生されるのかはよくわかっていませんが、バセドウ病や、リウマチなどの膠原病と同様な機序で起こるとされています。
橋本病は、発症直後は、抗体により甲状腺の組織が破壊されますので、一過性に血中の甲状腺ホルモンが上昇します。これを甲状腺中毒症と呼びます。しかし、自然経過にて血中ホルモンは徐々に低下し、正常値になる場合もありますし、低下する場合もあります。血中の甲状腺ホルモン値が低下した場合は、甲状腺機能低下症を引き起こします。

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下症の症状は様々ですが、やる気がでない、体重が増加する、足がむくむ(むくんだ足を押してもすぐにもとに戻るのが特徴です)、生理が来ない、毛が抜ける、肌がかさかさする、便秘、不妊症、流産しやすいなどです。
また、身体的には首の甲状軟骨(のどぼとけ)の下にある甲状腺が腫れることが多いですが、痛みは伴いません。甲状腺が腫れていない場合もあります。

甲状腺機能低下症(橋本病)の診断

橋本病の診断は血液検査でほぼ可能です。抗サイログロブリン抗体か抗TPO抗体が陽性であればほぼ間違いありません。これらの抗甲状腺抗体は、当院では院内では測定できませんので、外部の検査機関での測定となりますが、通常3~4日で結果がわかります。
甲状腺ホルモンである遊離型T3、T4や甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、多いことも、正常なことも、少ないこともあります。補足の診断として、甲状腺エコーで、甲状腺が腫れていることや血流が少ないことなどがあります。甲状腺エコーは当院で検査可能です。

甲状腺機能低下症の治療

治療は、甲状腺機能低下症(橋本病)の病態によります。血中甲状腺ホルモン値が正常であれば通常経過観察(3~6ヶ月間隔)します。高値であっても自然に3ヶ月程度で低下してきます。低値の場合には甲状腺ホルモン製剤(チラーヂンSR)の内服の適応になる場合がありますが、おおよその基準があります。
妊娠可能年齢以上の女性の場合や男性では、TSHが10μU/mL以上であれば治療をしますが、症状により正常化を目指すこともあります。また妊娠中や不妊症、習慣性流産の方の場合は、TSHが2.5μU/mL以下になるように治療します。

亜急性甲状腺炎

首の甲状軟骨(のどぼとけ)の下にある甲状腺が、ウイルスにより炎症を起こす病気です。発病する前にかぜの症状やのどの痛みなどの上気道炎を起こしていることが多いです。また、夏に発病しやすいとも言われています。いわゆる甲状腺がかぜをひいた状態と言ってもいいでしょう。

亜急性甲状腺炎の症状

首の下側(甲状腺のある部分)の痛みです。非常に強い痛みのこともあります。甲状腺は首の右と左に広がって存在しますが、その痛みが右側になったり、左側になったりと移動することが特徴です。発熱はほとんどみられませんが、痛みが強くて、食べ物がのどを通らないこともあります。息ができなくなるようなことはありません。
また、血中の甲状腺ホルモンが最初は増えますので、バセドウ病と同じように、胸がどきどきする、汗をよくかく、体重が減る、いらいらするなどの症状もみられます。

亜急性甲状腺炎の診断

血液検査と甲状腺エコーで行います。血液検査では、甲状腺ホルモンである遊離型T3、T4の上昇と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低下がみられますが、バセドウ病や橋本病のような抗甲状腺抗体である甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体抗体(TRAb)、抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体はみられません。
しかし、この病気では、血沈、CRPなどの炎症反応が陽性になることが特徴です。ウイルスが原因の病気ですので、白血球はあまり増えません。甲状腺エコーでは、痛みのある部分が黒く不規則に映ります。これを低エコー領域と呼びます。これらの検査の異常は、病気が治ると正常に戻ります。

亜急性甲状腺炎の治療

病状が軽い場合には、鎮痛剤で治ることもありますが、特効薬はステロイドホルモンの内服です。最初は多い量(プレドニゾロンで20mg程度)を内服しますが、血液検査にて甲状腺ホルモンの量や炎症反応の状態をみて、徐々に内服量を減らしていきます。
だいたい2か月間ほど内服すれば完全に治ります。甲状腺エコーでも、低エコー領域は消失します。また再発はほとんどありません。甲状腺の病気は、完全に治る病気はあまりありませんが、この病気は数少ない治る病気です。

甲状腺ホルモンについて

甲状腺ホルモンには、T3とT4があります。通常甲状腺からは、T4として分泌され、一部は血中でT3に変換されます。ホルモンとしての作用は、T3の方が強いのです。しかし、血中の甲状腺ホルモンは、そのほとんどが血中の蛋白と結合して、効果を発揮できません。少量残ったホルモンが効果を発揮します。それが、遊離型のT3、T4というものです。通常、血液検査では、この値をみて血中の甲状腺ホルモンの量を判断します。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、脳の下垂体という部分から分泌されるホルモンです。血液中の甲状腺ホルモンが少ないと、下垂体からのTSHの分泌は増加し、甲状腺にホルモンを作るように指令します。また、甲状腺ホルモンが多いと、逆にTSHの分泌が減少して、ホルモンを作らせないように命令します。したがって、下垂体に病気がなければ、このTSHの値をみれば、甲状腺ホルモンが血中に多いのか、少ないのかがわかるのです。

当院では、この遊離型T3、T4やTSHをいずれも即日に約20分で測定できます。

自動蛍光免疫測定装置

甲状腺ホルモン等のホルモン検査を行います。
当院では来院されたその日に、短時間で甲状腺ホルモン検査結果を出して、その後の検査・治療方針を決定しますので、迅速かつ的確な甲状腺疾患の診断・治療が可能です。

通常、甲状腺ホルモン検査は結果が出るまでに、一般のクリニックで数日、総合病院でも1時間以上かかりますが、当院では採血から結果が出るまでが約20分と短時間で済む機種を採用しております。

自動蛍光免疫測定装置 AIA-360

自動蛍光免疫測定装置 AIA-360